災害医療
Disaster medical

皆さんは「災害」と聞いて、どのような出来事を思い浮かべるでしょうか。2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、そして今後懸念される東海・東南海・南海地震など、大規模な自然災害が頭に浮かぶかもしれません。
しかし、災害とは自然災害だけに限りません。大規模交通事故、戦争・紛争といった人為的な事象も災害に含まれます。こうした非常事態においては、自衛隊・消防・警察・救急隊といった関係機関が即座に出動し、それぞれの専門性を活かして対応にあたります。そして、その中でも「医療」は、負傷者の命を救い、健康被害の拡大を防ぐという点で、極めて重要な役割を担っています。各機関と密接に連携し、迅速かつ的確に医療を提供するためには、災害医療に対する深い理解と実践的な経験が欠かせません。
災害時の医療の最大の特徴は、物資や人員の需要が供給を上回り、通常の医療体制が維持できなくなることです。そのような中でも、「可能な限り最大限の医療を提供する」ことが求められます。そのためには、平時からの知識・技術に加え、冷静な判断力が不可欠です。こうした力は、日々の診療や研鑽を通じてこそ培われます。災害医療とは、決して「非常時だけの医療」ではありません。
さらに近年では、高齢化の進行や人口減少に伴い、医療機関の集約化、病院機能の再編、在宅医療の推進など、医療を取り巻く環境が大きく変化しています。これらの変化は、災害時の医療提供体制にも大きな影響を及ぼします。私たちは大学病院・研究機関として、こうした社会課題に対し、産学官が連携しながら平時からの体制整備や課題解決に取り組んでいます。地域に根ざした持続可能な災害医療体制の構築を目指し、研究と実践の両面から取り組みを進めています。
また、災害時には他機関との連携や調整が欠かせません。自衛隊、消防、救急、警察、行政機関などとの協働においては、情報共有や意思疎通を円滑に行うための「折衝能力」も重要です。顔の見える関係を築いておくことが望ましい一方、現場では顔の見えない相手とやり取りをする場面も多く、そうしたコミュニケーション能力は日常業務の中で鍛えておく必要があります。
直近では、2016年の熊本地震、2018年の西日本豪雨、そして2024年の能登半島地震において、岡山大学病院はDMAT(災害派遣医療チーム)を派遣し、被災地における医療支援を行ってきました。DMAT指定医療機関・災害拠点病院として、災害時の実動だけでなく、平時からの備えと人材育成にも力を入れています。救命救急・災害医療学講座では、災害医療に必要な知識・技能・判断力を育むための研修プログラムを実施しており、DMAT訓練やMCLS講習など、実践的な訓練にも積極的に取り組んでいます。
災害はいつ、どこで起こるかわかりません。そんなとき、人の命を支える医療の力が必要とされます。過酷な状況下で最善を尽くす災害医療には、冷静な判断、チームでの連携、そして「備える力」が求められます。私たちは、その力を育てるために研鑽を重ね、実践の場で挑み続けています。災害医療に興味を感じる方、仲間と共に成長し、社会の安心を支えたいと願う方、ぜひ私たちと一緒に歩んでいきましょう。
DMAT
DMATとは、「災害急性期に活動できる機動性を持ったトレーニングを受けた医療チーム」と定義されており、災害派遣医療チームDisaster Medical Assistance Teamの頭文字をとって、略してDMAT(ディーマット)と呼ばれています。
医師、看護師、業務調整員(医師・看護師以外の医療職及び事務職員)で構成され、大規模災害や多傷病者が発生した事故などの現場に、急性期(おおむね48時間以内)に活動できる機動性を持った、専門的な訓練を受けた医療チームです。
「阪神・淡路大震災」で災害医療について多くの課題が浮き彫りとなり、この教訓を生かし、各行政機関、消防、警察、自衛隊と連携しながら救助活動と並行し、医師が災害現場で医療を行う必要性が認識されるようになりました。
現在では、現場の医療だけでなく、災害時に多くの患者さんが運ばれる、被災地の病院機能を維持、拡充するために、病院の指揮下に入り病院の医療行為を支援させて頂く病院支援や、首都直下型、東海、東南海・南海地震など想定される大地震で多数の重症患者が発生した際に、平時の救急医療レベルを提供するため、被災地の外に搬送する、広域医療搬送など、機動性、専門性を生かした多岐にわたる医療的支援を行います。


